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最高裁判所第三小法廷 平成5年(あ)637号 決定 1993年9月28日

本店所在地

高松市元山町九四八番地一

福井興業株式会社

右代表者代表取締役

福井正雄

本籍

高松市元山町九二一番地第一

住居

高松市元山町九二一番地一

会社役員

福井正雄

昭和五年九月一六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、平成五年六月八日高松高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人両名から各上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人古市修平の上告趣意は、量刑不当の主張にあって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判所裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男)

平成五年(あ)第六三七号

○ 上告趣意書

被告人 福井興業株式会社

右代表者代表取締役 福井正雄

被告人 福井正雄

右両名に対する法人税法違反被告事件の上告趣意は左記のとおりである。

平成五年八月三一日

右被告人両名弁護人 古市修平

最高裁判所第三小法廷 御中

原判決の刑の量定は甚だしく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

一、一審判決では、被告人福井興業(株)(以下「被告会社」という)に対し、罰金二五〇〇万円、被告人福井正雄(以下「被告人福井」という)に対し、懲役一年六月、三年間執行猶予の判決で、量刑著しく重きにつき控訴したにもかかわらず、原審は被告人両名の情状に関する主張を何ら斟酌することなく控訴を棄却した。

しかしこれでは余りにも刑が重きに過ぎると言うべきである。

これは原審が、被告人両名が主張する本件脱税の動機、本件犯行態様、実際の脱税額等について何ら顧慮しなかったことに原因している。

二、1、本件脱税の動機について

まず第一に被告会社は産業廃棄物の処理及びセメント販売等を主たる業とする会社であるが、昭和四七、八年頃のオイルショックによる不況で倒産の危機に瀕した経験があり、今回のバブル経済による好況も長続きせず(現に崩壊した)、不況がやってくるとの認識から何とか利益を社内留保し、不況に備えようとの意図から脱税したもので、代表者の被告人福井が個人的に蓄財したり、費消したものでないことは証拠上明白であり、この点を留意願いたい。

第二に被告会社は産業廃棄物の処理を業とする会社であるが、この業種では一番頭を悩ますのが産業廃棄物の処理場所を確保することであるが、付近住民の反対にあったり、あるいはこれに伴って不当な利益をむさぼろうとする暴力団や右翼らの暗躍があって、場所の確保や事業の継続のために多額の裏金の支出を余儀なくされるのであり、これは公知の事実である。

しかるにこのような裏金は領収書が取れないため税務当局から経費とは認めてくれないことも本件犯行の要因の一つである。

第三に被告会社は、昭和六二年頃より韓国よりセメントを輸入して販売していたが、日本国内のメーカーが外国産のセメント輸入に対して国内需要が低下することを恐れ、結託して外国セメント輸入業者には国内セメントを一切販売しないという形のヤミカルテルを結び圧力をかけられ、正規のルートでは国内セメントを仕入れられなくなった。

被告会社としては、韓国セメントの輸入だけでは賄いきれず、裏のルートで国内産セメントを仕入れざるを得なかったが、表に出すことができないため裏金で決済せざるを得なかった。

このため北朝鮮産のセメントの仕入れ先である「臨海セメント」の協力で架空請求書を出してもらい、国内産セメントを「臨海セメント」からの仕入れとして計上するなどの操作をせざるを得なかった。

しかも韓国セメントは同国の国内事情によって輸入ができなくなることも予想されるため、セメントサイロの建設費を固定資産として償却するよりも経費で落とし、不況時に備えて利益を社内留保しておかざるを得ない状況もあった。

このようにセメントや産廃の事業は、裏金を要したり、業界自体の体質に問題があったり、景気の好不況に左右されやすい体質があること等が本件犯行の動機の一因をなしていることを御理解いただきたい。

第四に香川小松や日産ディーゼル東四国販売等の建設機械のディーラー達は、業者間の競争が激しいため、その売り込みのために様々な甘言を弄する。

即ち、ディーラーのセールスは、売買代金を払った後でその一部をバックするとか、或いは建設機械は本来は固定資産であるがこれを修繕費の形で請求し、一括して当年度の経費として落とせるようにする等のセールス・トークをするのは業界の常識である。

本件では被告人福井が建設機械の購入に当たって一方的にディーラーに対し修繕費として請求することを強要したかのように原審が認識したとすれば、それは明らかに誤りである。

被告会社がセールス・トークに乗ったのは非難されてもしかたがないが、ディーラーの右甘言が被告人らを脱税へと駆り立てた要因であることを御理解いただきたい。

三、正規の申告をした場合の税額等について

被告会社の本件脱税は、昭和六三年ないし平成二年の三年間でそのほ脱税額は合計一億七六九万一三〇〇円である。

ところで、弁第三号証(税理士多田羅清三作成)によると、被告会社が正しい申告をしたとすれば、建設機械等の固定資産について減価償却や特別償却が認められ、その償却費を合計すれば、約一億三八〇〇万円である。

ちなみに、資本金一億円以下で申告所得八〇〇万円を越える部分の所得に対しては、昭和六三年及び平成元年度は税率四二%、平成二年度は四〇%である。

従って右一億三八〇〇万円について仮に税率四割として計算しても約五五〇〇万円となり、正規に申告しておけば、少なくともこの金額だけで納税額は安く済んだのである。

つまり、本件ほ脱税額は一億七六九万円余であるが、実質のほ脱税額はその半額に満たないといって過言でない。

しかし被告会社は本件脱税をしたため右償却が認められなくなったため、結果的に一億七六九万円余のほ脱税額となったのである。

四、被告会社は、本件起訴後税理士を変え、毎月丹念に経理面のチェックを受け、綿密な指導を受ける等経理システムを根本的に改善しており、二度と再犯を犯すおそれのない状況を自ら作り出している。

又被告人福井は、社団法人香川県産業廃棄物協会会長、協同組合香川県産業廃棄物処理センター理事長、香川県トラック協会理事等の要職を歴任してきて、少なからず社会に貢献してきたが、本件事件を新聞等のマスコミに掲載され、社会的制裁を受け、又右役職を辞任し、深く反省をしているところである。

五、以上の諸般の情状を適正に御判断いただければ、原判決が控訴を棄却し、一審判決を維持したことがいかに不当であって正義に反するか明白である。

よって原判決を破棄し、被告会社に対してはより低額の罰金を、被告人福井に対してはより寛刑を賜りたい。

以上

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